検察官の定年を延長する検察庁法改正に対し、SNS上で抗議の意思を示す運動が芸能人の間にも広がっている。
5月8日に衆議院で審議が始まった、検察庁法の改正案。検察官の定年を63歳から65歳に引き上げ、次長検事、検事長、検事正については、63歳の役職定年後も内閣や法相が認めれば最大3年間、定年を延長できるとしている。
「法案が成立すれと、政治家の不正を正す立場でもある検察官の人事に、時の政権が介入できることになり、検察官の中立性が脅かされるのではという指摘があがっており、ツイッター上では“#検察庁法改正案に抗議します”というハッシュタグをつけた投稿がトレンドになっています。最初は30代の女性会社員が始めたTwitterデモが、一般ユーザーだけでなく芸能界にも広がっていったのです」(IT系ライター)
例えば演出家の宮本亜門氏は10日、自身のツイッターに「このコロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どうみても民主主義とはかけ離れた法案を強引に決めることは、日本にとって悲劇です」と投稿。俳優の井浦新も10日、「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい。」とツイートしている。
こうした芸能界での抗議の動きは瞬く間に伝播し、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅや小泉今日子、俳優の浅野忠信、芸人の大久保佳代子、元AKB48で女優の秋元才加、格闘家の高田延彦など、SNS上で抗議の意を示す芸能人の数は日を追って増加している。
「今回は普段、政治的な発言をあまりしない多くの芸能人も抗議表明しているところが特徴的ですね。それだけ国民の関心が高い重大な問題ということですが、一方で芸能界で抗議活動が過熱することに懸念を示す意見も出ています」(前出・IT系ライター)
落語家の立川志らくは11日に出演した「ひるおび」(TBS系)で、法改正について「パッと見は危険な感じがします。今この時期に、これを進めていいのか」とした上で、「ただ気を付けなきゃいけないのは、みんな“印象”だけで、芸能人の方なんか…これどんどん広がっていく…」と今回のムーブメントを不安視し、続けて「すべてとは言わないですよ、ちゃんと考えている人もいるけれども」「コロナのことで政権はもの凄く攻撃を受けてますから、これに乗っかってみんな一気に攻撃しようという気持ちになるのは分かるんだけれども。攻撃する時は、これいけないと思うのだったらちゃんと法案を読んで、これどういうことなのかちゃんと理解してから乗っかっていかないと取り返しのつかないことになる」と危惧した。
「きゃりーぱみゅぱみゅさんのツイートのコメント欄では、フォロワー同士の言い争いが起こってしまい、心を痛めたきゃりーさんはツイートを削除し、抗議表明の理由を明かしました。自身の政治的発言でファンの間に“分断”を生じさせてしまったことは不本意だったようです」(芸能ライター)
一方で、“芸能人は何も考えていない”との批判に抗議する発言も増えてきている。女優の東ちづるは11日に自身のツイッターで、きゃりーが一部批判に“歌手は知らないは失礼”と反論したというネットニュースを引用して「私にも『ファンだったのに政治発言にガッカリ』『女優さんだから分かってないでしょうが』みたいなコメントが。芸能人は社会や時事に疎いという思い込み?そうあってほしい?優位、上から目線でいたい?おバカでいてほしい?ということかあ。職業差別が根底にあったのかあー」と発信。
女優の岩佐真悠子も12日、「中卒でね。元ヤンとかって事になってるけど、ちゃんと一応色々勉強してるしバカではないの。」と、“#検察庁法改正案に抗議します”つきで芸能人の政治的発言を見下すような流れに苦言を呈している。
「定年延長問題にこれだけ多くの芸能人が抗議を発信したのは、コロナウイルス禍で仕事が激減したり、自宅からのリモート出演が増えて、通常よりもテレビ番組やSNSで政治問題に触れる機会が増えたという背景もありそうです。ただ誰しも、どんな理由にせよ、政治的な問題に関心を持ったり、権力をチェックする目を持つようになる動きは大切なことでしょう」(前出・ライター)
ともあれ、検察官の定年延長に多くの国民から監視の目が注がれていることは確か。多くの国民が納得するような議論を尽くしてほしいものだ。
(石見剣)