埼玉県南東部に位置し、東に江戸川、西に中川が流れる吉川市は、かつて舟運で栄えた町。河岸には川魚料理でもてなす料亭が並び、新選組の近藤勇や昭和期の総理大臣経験者も訪れて舌鼓を打ったという。
平成期からはナマズをシンボルにしたまちづくりがスタート。ナマズの養殖にも成功し“なまずの里”しての認知度も上がった。
そんなナマズ料理を味わおうとやって来た。JR武蔵野線吉川駅南口を出て、まず目を引くのが金色のナマズ親子像だ。全長は親ナマズが4.8メートル、子ナマズは1.4メートル。人間国宝の漆芸家・室瀬和美さんの作品で、鍛金技法で銅板を打ち出し、成形した後に漆を塗り、金箔を貼っている。まんまるの目が愛らしく、半月状に丸めた体からは躍動感を感じる。
推定樹齢800年の大イチョウが立つ密厳院、川に架かる水道管の上を歩ける新中川水管橋など、駅の南側を散策したら北口へ。観光案内所「ラッピーランド」をのぞくとナマズ関連の商品がそろっていた。その中にはナマズのエキスが入った“なまずコーラ”もある。その味は少し甘口のコーラといった感じだ。
ナマズ料理は、和食、中華、イタリアンなどで味わえるようだが、今回は駅から15分ほどの「割烹ますや」にした。割烹の二文字に緊張しつつ入店すると、気さくな対応にひと安心。ナマズの天ぷら、南蛮漬け、たたき揚げがセットになった、なまず御膳を注文した。
注目はたたき揚げ! 吉川市の郷土料理で、ナマズを骨ごとすりつぶし、味噌で下味をつけて揚げる。
「冷めると縮んで硬くなるから、揚げ立ての温かいうちがおすすめよ」
スタッフのお母さんに促されて、すぐ丸かじり。ゴツゴツした外見から硬そうに見えたが、ふわりと柔らかく、噛みしめると骨の歯応えがした。
まずはそのまま。次にしょうが?油で食べると甘みが増してまたうまい。くう~。ゴールならば迷わずビールを頼むけれど…。
食後は吉川市役所近くの永田公園まで30分ほど歩いた。園内に大小2つの築山があり、どちらも上ることができる。大きな山は高さ16メートル。山頂に続く階段から古墳にも見えるが、地元では吉川富士、きよみ野富士と呼んでいる。
山頂の展望台に立つと360度の眺望が楽しめ、遠くに筑波山が望めた。空気の澄んだ日は富士山も見えるという。埼玉の富士から本家の富士山を望むのも、一興かもしれない。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。