若者が行き交うおしゃれな街も、100年前にはなんとものどかな田舎町だったようだ。
9月6日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第113回では、主人公・万太郎(神木隆之介)の妻である寿恵子(浜辺美波)が、東京・渋谷の道玄坂に到着。周りを見渡しては呆れ顔になる場面で幕を閉じていた。
寿恵子が渋谷に行くとと告げた時、十徳長屋の差配・りん(安藤玉恵)は「あんなとこ、子供を連れて行くところじゃないよ」と忠告。どうやら相当物騒なところと認識されていたようだ。
「渋谷は文字通りの谷間であり、東の宮益坂と西の道玄坂に挟まれています。宮益坂は江戸に近いこともあり、わりと古くから町屋も発展していましたが、谷底を流れる渋谷川をはさんだ対岸側の道玄坂方面は発展が遅れていたもの。しかもりんが指摘したように、子供を連れていく雰囲気ではない一面もありました」(週刊誌記者)
渋谷はもともと、大山街道(現在の国道246号線)の宿場町として江戸時代から栄えていた。明治20年代には電燈が灯るようになり、道玄坂に沿った円山町付近の花街が発展していったという。
現在はライブハウスなども立ち並び、若者も多く行き交う円山町だが、かつては花街として大人の遊び場として知られていた。現在でもファッションホテルが立ち並ぶ様は、その名残だろうか。それゆえりんが寿恵子の行き先を心配したのも当然だろう。
その一方で明治中期の渋谷は、今では考えられないくらいに「辺境の地」だったというのである。
「この付近は明治42年(1909年)までは渋谷村であり、その後は渋谷町に昇格するも、行政範囲としては東京府豊多摩郡にありました。東京市に編入されたのは昭和7年(1932年)のことで、実は意外と最近なのです。作中の明治29年当時にはまだ村であり、寿恵子らが住む帝国大学にほど近い根津から見れば、現在の八王子よりも田舎の郊外に見えたことでしょう」(前出・週刊誌記者)
現在の東京都にある村は、島しょ部を除けば檜原村のみ。同村に鉄道は走っておらず、バスも隣接するあきる野市に向かう路線のみだ。
さすがに現在の村と明治時代の村では事情が異なるものの、まだ村に過ぎなかった渋谷が相当な郊外だという感覚は、「らんまん」の作中当時には東京市民の共通認識だったはず。しかも花街で知られる渋谷となれば、子供を連れて行くところではないと誰しもが思ったはずだ。
そんな渋谷で果たして寿恵子は商売を成功させられるのか。ここからが彼女の商才の見せ所だろう。