アナウンサーと俳優は、ともに「“顔(身体表現)”と“言葉(音声表現)”で勝負する」というところがよく似ています。アナウンサーを“顔と言葉”で見てみると、この仕事の奥深さが見えてきます。(写真はNHK「サンデースポーツ」キャスターの頃)
■「役作り」は“顔づくり”
ある俳優さんがこう言っていました。「役作りは“顔づくり”」だと。「自分の演じる役を作るには、まず顔から作っていく」 つまり、「“その役柄の顔”をすれば、その役になり切ることができる」というのです。医者の役作りには「医者顔」、刑事は「刑事顔」をすればいい。
台本に登場する(たとえば)刑事の個性をイメージし、その“役顔”を作る。そうすれば、その“役顔”が、その刑事の役を全て演じてくれるというわけです。しかも、その俳優さんの顔で作る“役顔”ですから、絶対に世界でただ一つ。その俳優さんにしかできない刑事のできあがりです。
■アナウンサーの“顔づくり”
俳優さんに“役顔”があるように、アナウンサーには担当する番組の“バングミ顔”があります。私は長い間アナウンサーという仕事をしてきましたから、「番組に対応したたくさんの“バングミ顔”」 を持っています。具体的には、歴史番組なら“歴史顔”、「サンデースポーツ」なら“スポーツ顔”、同様に報道番組の“ニュース顔”、芸能番組の“ステージ顔”などと、いろいろです。
ある時、報道番組を担当していた私に「今日の料理」のオファーがありました。ものすごく忙しかったので思わず「何でオレが?」と聞いてしまいました。その時のプロデューサーの答えは「中村さんは、感動が正直に顔に出る(私の顔は読みやすいとよく言われます)。その料理に合わせた“おいしい顔”ができるから…」でした。言い換えれば「料理に応じた“食リポ顔”ができる」 ということですね。アナウンサーにとっては、アリガタイ言葉でした。
■アナウンサーの“バングミ顔づくり”
ま、あまり努力はいりません。スポーツのことをしゃべろうと思うと自然に“スポーツ顔”に。逆に、“スポーツ顔”をすると、たちまちスポーツキャスターの発想になるのです。これまでも述べてきたように、「個性は顔をコントロールし、逆に顔は個性をコントロール」しているのです。
「その番組」の「その顔」をすると、たとえば報道や歴史やスポーツなどのそれぞれの分野の発想もホイホイ浮かんできます。それも、普段は、とても思いつかないような“スーパー発想”が。特に、「歴史誕生」という番組を担当していた時などは、一応、台本のコメントを自分の言葉に書きかえ、それを丸暗記してスタジオ収録に臨むのですが、いざ本番となると、何と、「思いもよらないスーパーコメント」が、次々と出てきたものです。アドリブと言うより、もっとすごいコメント。一種、“神がかり的状態”となるのです。プロデューサーもビックリしていました!
そんな時、私には「顔は“神状態”を引き起こすんだなあ」 という実感がありました。顔はいつも、あなたをコントロールしています。そして顔はあなたの“スーパー個性”を作る。実に不思議なものです。
「“そのテ”の顔をすれば、“そのテ”の行動が誘発さされる」という“顔パワー”は、アナウンサーの放送現場に限らず、「日常生活でも、十分に応用可能」です。みなさんも、その現場に一番ふさわしい顔を意識的にしてみてください。あなたの顔が、あなたを“スーパーマン(ウーマン)”にしてくれるはずです。
次回は、アナウンサーにとって、実は最も難しい(と思う)、“ニュース顔” についてです。
●プロフィール
なかむら・かつひろ 1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に 「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演テーマ 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」